Utopia

三章:幻影の話

さきほどの話からしばらくの時間が流れる。少女の目には涙があり、恐らく彼女の感情が落ち着くのを待っていたのだろうことが伺える。

少女が笑顔を見せる。

「魂の色…私…命の終わりにそんなことを知れるなんて思ってなかった」

「フフ、ワタシも…外の世界のヒトに逢えるなんて長くまどろんで見るものだよ」

「この場所が…今の時間を生きるキミにとって少しでもよいところだといいのだけれど」

少女はヒュトロダエウスを訝しげに見る。

「ねぇ、ヒュトロダエウス。この街はなぜ、こんなところにあるの?」

「…」

「あと、あなた自身についても…他の幻影は、さっきから同じ道を繰り返し歩いている…自由にお話できてるのは、あなただけみたい」

「あなたは私の話を聞いてくれた…だからお願い、あなたもあなたのことを教えて」

「…ワタシは、ワタシのことを話すのはあまり得意でないのだけれど…」

「…わかった。できる限りで伝えよう」


「最初に話した通り…ここ、アーモロートはかつてこの星にあった街だ」

「元々は、もちろん海の底ではなく地上にあったんだよ。屋上に出ると、空から降り注ぐ日差しがとても心地よいものだった」

「ワタシはここで友人たちと暮らしていて…仕事が終わった後は、いつもこのあと何しようかって共にはしゃいでいた」

「本当に…楽しい日々だった」

「そんなある時…この海の向こうで大地が鳴く、という現象が広まり始めた」

「キミの時代で起きていたことに近いのかな…恐ろしい獣がいくつも生まれ、人を襲う」

「多くの人々が止めようと奔走したけれど…それは叶わなくて」

「結局、最後まで避けていた、けれど最も確実な方法を選ばなくてはいけなかった」

「それは、人類の半数が命をささげこの星を守る存在を作り出すこと」

「途方もない計画のように思えるかもしれないけれど…星の終わりを目の前にして、多くの人が自らそれに志願した」

「ワタシたちにとって、不意に命が失われ大地が滅びることは、それほどまでに恐ろしいことだったから…」

「そして、生み出された存在によって災厄は止められ、星は守られた…そのはずだった」

「…実は、ワタシも命をささげたうちの一人…だから、この後の記憶ははっきりとはしていないのだけれど」

「ただわかるのは、この街は他のことが原因で滅びてしまったのだということ」

「そして、ワタシの友人がまだ生きていて…きっとこの街を惜しんで、幻影として創り出したのだろうということ」

「キミは、どうしてワタシだけが自由に話せているのかって聞いてくれたよね」

「…実は、この街を作った人とワタシはかつて仲の良い親友だった」

「彼は、この星を導く大事な仕事についていた。だから、災厄の対策にあたっていたのも彼だったんだ」

「人々の命が必要という結論が出たとき…彼はひどく苦しんで、よくワタシの元を訪れていた」

「ワタシは…そんな彼の様子をみてワタシにできることがあるのなら、と思ったんだ」

「…どうかな、キミの疑問に答えられているといいのだけれど」


「あなたが他の人と違うのは、その人と友達だったから…?」

「ああ、それは…」

「さっき話したように、ワタシは魂の色を視ることができる…だから、ワタシなら気付く、と彼が考えた…とも言えるのだけど」

「もしかしたら、ワタシに今の街のことを知ってほしかったのかもしれない」

「結局、失敗してしまったけれど…当時のワタシは、命を捧げることで星を守れると信じていた」

「そこは穏やかで、人々が何も恐れることのない世界。友人とワタシが一緒に生きてきた美しい街」

「…フフ、実はね、キミが最初に聞かせてくれたおとぎ話のことが、ワタシはとても嬉しかったんだ」

「幻影だったとしても、この街を確かに美しいと思い覚えていてくれる人がいた…ただ、そのことが」